水玉模様のマグカップ、星柄のプレート、鳥や花が踊るボウル——イギリスのどんな素敵なキッチンにも、ひとつはある陶器ブランドがあります。エマ・ブリッジウォーター(Emma Bridgewater)です。

1985年にエマ・ブリッジウォーターがたった一人ではじめたこのブランドは、現在では年間190万点以上の陶器を製造し、350人以上のスタッフを雇用する英国最大級のポタリー・メーカーに成長しました。しかもすべての製品を、英国陶器の聖地ストーク・オン・トレントの工場で今も手作りしています。
誕生日プレゼントの陶器が見つからなかったから・・・
その物語は、お母さんへのプレゼントを探すところからはじまりました。
「ロンドン中のお店を探し回ったけれど、お母さんへのプレゼントにちょうどいいカップ&ソーサーがひとつも見つからなかった。だったら自分で作ればいい、と思ったんです」― エマ・ブリッジウォーター
1984年のある日、エマ・ブリッジウォーターは母親の誕生日プレゼントを求めて店を回っていました。しかし彼女の目に映るのは、繊細すぎて日常使いできないデリケートな磁器か、どこか無骨でロマンのない量産品ばかり。美しくて実用的で、しかも日々の暮らしを楽しくしてくれるような陶器が、どこにも存在しませんでした。
エマはその場でマグカップ・ボウル・ジャグ・ディッシュの4つの形をスケッチし、英国陶器の聖地ストーク・オン・トレントへ向かいました。ミントン、スポード……衰退しかけながらも誇りを持って続く職人たちの街。駅から小さな工房へ向かうタクシーの中で、「この人たちの仕事と技術を守りたい」という思いが、ビジネスと重なった、とエマは語ります。
カットしたスポンジを使って自分でデザインを施した最初の作品は、リバティ・ロンドン・ハロッズ・ザ・ジェネラル・トレーディング・カンパニーにすぐ採用されました。こうして1985年、エマ・ブリッジウォーター社が誕生します。
スポンジウェアの復活:忘れられていた伝統技法
エマ・ブリッジウォーターの製品を見て誰もが最初に気づくのが、あの愛らしい「スポンジ」のスタンプ模様です。ポルカドット・星・水玉……丸みのある不均一な斑点がずらりと並ぶデザインは、工場機械では絶対に出せない「手の温もり」を持っています。

スポンジ塗りは18〜19世紀の英国陶器業界でかつて広く使われていた伝統技法でしたが、20世紀に入って機械化が進むにつれ、ほとんど廃れてしまっていました。エマはこれを1980年代に復活させ、自分のブランドのシグネチャー・スタイルに確立しました。現在でも各デコレーターが自分のイニシャルを作品の裏底にサインするという伝統が続いており、ひとつひとつの作品に「作り手の顔」があります。
スポンジウェアの製造工程のすべて
エマ・ブリッジウォーターのすべての陶器は、ストーク・オン・トレントの工場でクリーム色の陶土を使って作られます。1つのマグカップが完成するまでに、およそ30双(60人分!)の手が関わります。
粘土の調合
デボン・コーンウォール・ウェールズ・スタッフォードシャーで採掘された粘土を、ストーク市内の2つのサプライヤーが独自のレシピでブレンド。「スリップハウス」と呼ばれる部屋で「ブランジャー」という機械が液状の「スリップ(泥漿)」に加工し、パイプでキャスティング(成形)工房に送られます。
成形(モールドキャスティング)
スリップを石膏製の型(モールド)に流し込み、固まったら型から外します。これを「キャスティング」と呼びます。ジガー・ジョリーなどの伝統的な成形機も使用します。
フェットリング&スポンジがけ

成形した素地の継ぎ目やバリを「フェットラー」が丁寧に削り取り、なめらかに整えます。
素焼き(ビスケット・ファイアリング)
約1100℃の窯で最初の焼成。これで素地が固まります。
釉薬がけ(グレージング)
焼き上がった素地に白い釉薬をかけます。
⑥ 絵付け(デコレーション)
スポンジ・ブラシ・リソグラフ転写など複数の技法でデザインを施します。スポンジ塗りは職人がカットしたスポンジに絵具をつけて一点一点手作業で押していきます。各デコレーターは作品の裏底に自分のイニシャルをサインします。
⑦ 本焼き(グレーズ・ファイアリング)
釉薬と絵付けを定着させるための2回目の焼成。この工程でエマ・ブリッジウォーター特有の温かみのある色合いと光沢が生まれます。
基準を満たしたものが「ファースト(正規品)」として出荷。構造的には問題ないが外観に小さな傷のあるものは「セカンド(ちょっとわけあり品)」として工場アウトレットで割引販売されます。
ストーク・オン・トレントは英国陶器の聖地
エマ・ブリッジウォーターの工場がある「ザ・ポタリーズ(The Potteries)」の愛称で知られるストーク・オン・トレントは、18〜19世紀に英国陶器産業の中心として世界に名を轟かせた街です。ウェッジウッド・スポード・ミントン・ロイヤル・ダルトン——世界的なブランドがここで生まれました。20世紀に入って産業の衰退とともに失業率が高まる中、エマはあえてこの街に残り続けることを選択しました。
「私にとって、この仕事はずっとストーク・オン・トレントのことだった。あの古い工場のひとつを守り続けること。300人の雇用。それが良いことだと、私は絶対に知っている」― エマ・ブリッジウォーター
ストーク・オン・トレント工場を訪ねよう
エマ・ブリッジウォーターの工場は、1883年にミーキン兄弟が開いたヴィクトリア朝の工場を1995年にエマが購入し改装したもの。カルドン運河の川沿いに立つ日当たりの良い赤レンガの建物です。人気観光スポットで、ファクトリーツアー・デコレーション体験・カフェ・ショップが楽しめます。
ファクトリーツアー(Factory Tour)
月・火・木・金曜 10:00(約60分)。大人£5、16歳以下無料(要予約)。ジガー・ジョリー・フェットラー・キャスターなどの職人に実際に会いながら粘土が愛らしい陶器になるまでの全工程を見学できます。水曜は学校・教育団体向けのみ。
デコレーティング・スタジオ(Decorating Studio)
毎日 11:00 / 13:00 / 15:00(各90分)。スタジオ料£2.95+陶器代(£7〜)。スポンジ・ブラシを使って実際のエマ・ブリッジウォーターのデザインパターンでマグカップや皿を自分で絵付けします。完成品はお持ち帰りOK。全年齢・初心者大歓迎。
カフェ(The Café)
毎日営業(予約不要。アフタヌーンティーは要予約)。エマ自身のレシピからインスパイアされた家庭的なランチ・ケーキ。エマ・ブリッジウォーターの食器で出てくるのがまた嬉しい。川沿いのコートヤードと秘密の壁庭で屋外でも楽しめます。
ギフトショップ&セカンズ・アウトレット
毎日営業(入場無料)。最新デザインのギフトショップと、セカンズ(ちょっとわけあり品)・廃番品を割引価格で販売するアウトレットがあります。セカンズは構造的には完全に使用可能で、小さな外観上の傷が黒または赤のペンでマークされています(洗えば落ちます)。
基本情報
住所 Lichfield Street, Hanley, Stoke-on-Trent, ST1 3EJ
電話 01782 210328
メール bookings@emmabridgewater.co.uk
公式サイト emmabridgewater.co.uk/pages/factory
駐車場 工場裏のPelham Streetに無料駐車場あり(障害者・親子スペース対応)
アクセス(鉄道) ストーク・オン・トレント駅からタクシーで数分。ロンドンから約1時間半、マンチェスターから約1時間。
アクセス(バス) 6番・6Aバス(20分間隔)
アクセス(運河) カルドン運河沿いに一時係留スペースあり。フットブリッジで工場駐車場へ渡れます

