英国の歴史的なカントリーハウスを訪れると、磨き込まれた木の床の上に一枚のラグが目に飛び込んでくることがあります。色褪せ、少し擦り切れた、そのラグ。しかしそこには単なる敷物を超えた、インテリアの核心ともいうべき存在感があります。
カントリーハウスのラグは、空間に温もりと物語を与え、時代を超えてその家の個性を語り続ける、かけがえないインテリアの一要素なのです。
湖水地方発祥の「ナショナルトラスト」が管理する英国各地のカントリーハウスにも、さまざまな技法で作られた歴史的なラグが数多く所蔵されています。これらのラグは当時の部屋のインテリアの雰囲気を今に伝えています。そしてナショナルトラストのボランティアたちが当時の技法を忠実に再現しながら修復を続けることで、カントリーハウスのインテリアはその本来の姿を保ち続けているのです。
ビアトリクス・ポターのヒルトップとラグラグ
うちの近く、湖水地方の小さな村ニア・ソーリーにあるヒルトップ。『ピーターラビット』の作者として世界中に知られるビアトリクス・ポターが、1905年に購入し、晩年まで愛し続けた農家の邸宅、日本人の観光客にも人気のスポットです。

ヒルトップのインテリアは、英国カントリーライフの美学を凝縮したような空間です。重厚な木製家具、ウィルトシャー産の陶器、刺繍の施されたクッション、そして床に敷かれたラグが、一体となって温かく親密な雰囲気を醸し出しています。ヒルトップは農家の「カントリーコテージ」のお手本のような素敵なインテリアです。

床のラグも、ヒルトップのインテリアに欠かせない存在です。暖炉の前の石造りの床の冷たさを和らげ、暖炉の温もりを空間全体に広げる機能性、部屋に色彩とパターンをもたらすデザイン性があります。ラグはまさにインテリアの縁の下の力持ちといえるでしょう。長年の使用によって擦り切れや色褪せが進んでいたこれらのラグは、ナショナルトラストのボランティアたちによって丁寧に修復され、今もヒルトップを訪れる人々を当時の雰囲気ごと出迎えています。
ポター自身も手芸を愛した人でした。湖水地方の農家の暮らしに深く溶け込み、地元の伝統的な手仕事を大切にしていた彼女にとって、針仕事もインテリアを構成する重要な要素であると同時に、カントリーライフそのものでもありました。

伝統を守るインテリア
ナショナルトラストのラグ修復ボランティアは、カントリーハウスのインテリアを、その本来の姿のまま未来へと受け渡すという、大切な使命を担っています。ビアトリクス・ポターが愛した当時のインテリアの一部として、色彩、素材の感触、暮らしを彩ったパターン。それらをできる限り忠実に再現することで、ヒルトップのインテリアはその時代の空気を今に伝え続けています。
地道な作業の積み重ねが、カントリーハウスのインテリアを守り、次の世代へとつなぐ。それは決して派手なことではありませんが、インテリアが持つ本質的な価値、すなわち空間に宿る記憶と物語を守ることにつながっています。
カントリーインテリアへのインスピレーション
ナショナルトラストに所蔵されているラグたちは、現代のカントリーインテリアにも豊かなインスピレーションを与えてくれます。フックドラグの温かなテクスチャー、プロッドドラグの素朴な色彩、ブレイデッドラグの優雅なパターン。これらの伝統的な技法から生まれるラグは、現代のインテリアにも違和感なく溶け込み、空間に深みと個性をもたらします。
既製品にはない手作りの温もりと唯一無二の個性を持つラグは、カントリーインテリアの本質を体現しています。ヒルトップを訪れた際には、ぜひ床のラグにも目を向けてみてください。そこには、英国カントリーインテリアの美学と、ボランティアたちの愛情と、ビアトリクス・ポターの暮らしが、静かに織り込まれています。そしてもしかしたら、あなた自身のインテリアに新しいインスピレーションをもたらしてくれるかもしれません。
手作りのラグラグ
カントリースタイルのインテリアに手作りのラグ
カントリーハウスのインテリアにおいて、ラグが果たす役割は単なる床の装飾にとどまりません。空間全体のトーンを決定づける重要な要素として、ラグはインテリアデザインの核心に位置しています。
プロッドドラグ ― 素朴な美しさ
フックドラグと並ぶ英国の伝統的なラグ技法、プロッドドラグ。プロギーラグとも呼ばれ、特に北イングランドで盛んに作られてきたこの技法は、カントリーインテリアに独特の素朴な美しさをもたらします。
布の切れ端を土台布の穴に差し込んで固定するプロッドドラグは、フックドラグより厚みがあり、ふっくらとした質感が最大の特徴です。踏み心地の豊かさは格別で、足元から伝わる温もりがカントリーハウスのインテリアに一層の居心地の良さを加えます。
インテリアの観点から見ると、プロッドドラグの魅力はそのランダムな色彩にあります。古着や毛布など、家庭にある廃材を余すことなく使い切るこの技法では、計算されたデザインではなく、素材が持つ自然な色の組み合わせが独特のパターンを生み出します。整然としすぎず、しかし美しい。その予測不能な豊かさが、カントリーインテリアの自然体の美学と完璧に調和しています。
重厚な石造りの床や木製フロアに敷かれたプロッドドラグは、空間に柔らかさと人間的な温もりをもたらします。特にキッチンや農家風のダイニングルームに置かれた一枚は、カントリーインテリアの真髄を体現する存在感を放ちます。
フックドラグ ― カントリースタイルの典型
カントリーハウスのインテリアを語る上で欠かせないのが、フックドラグです。英国では18世紀頃から農村を中心に広く作られてきたこの技法は、カントリーインテリアの美学と深く結びついています。
麻布やバーラップ(黄麻布)を土台に、専用のフックを使って毛糸や布の細切れを引き込み、表側にループを作りながら模様を埋めていく技法です。花柄、幾何学模様、動物、風景など、作り手の個性が模様となって表れるフックドラグは、インテリアにおける手仕事の温かさと芸術性を体現しています。
素材は毛糸が一般的ですが、かつては古着や端切れを細く切ったものも使われていました。素材の違いが仕上がりの質感に微妙な差異をもたらし、それぞれのラグに唯一無二の個性を与えています。同じデザインでも、素材と作り手が違えば全く異なる表情になるのがフックドラグの醍醐味です。インテリアとしての美しさを保つためには、色の一致が特に重要です。
ブレイデッドラグ ― 編み込まれた温もり
三つ目の技法、ブレイデッドラグは、布を細長く切って三つ編みにし、渦巻き状や楕円形に縫い合わせて作るラグです。その同心円状のパターンと素朴な質感が、カントリーインテリアに独特のリズムと温もりをもたらします。
インテリアの観点から見ると、ブレイデッドラグの魅力はその形と模様の調和にあります。渦巻き状に広がる編みの模様が、視覚的なリズムを生み出し、床に置かれるだけで空間に動きと表情を与えます。楕円形のブレイデッドラグは特に汎用性が高く、ダイニングテーブルの下、ベッドサイド、玄関など、カントリーハウスのあらゆる場所に自然に馴染みます。
素材と色の組み合わせ次第で、シンプルな縞模様から複雑なパターンまで、さまざまな表情を楽しめるブレイデッドラグ。ニュートラルカラーで統一すればモダンカントリーの空間に、鮮やかな色を組み合わせれば伝統的なカントリーハウスのインテリアに、それぞれ美しく溶け込みます。
